複合材料の衝撃損傷解析 — 理論と支配方程式

カテゴリ: 構造解析 | 2026-01-15
composite-impact-theory
理論と物理の世界へ

複合材の衝撃損傷

🧑‍🎓

先生、複合材が衝撃を受けるとどうなりますか?


🎓

金属は衝撃で凹む(塑性変形)が、複合材は内部で破壊が広がる。表面にはほとんど痕跡がないのに、内部でマトリクスクラック、層間剥離、繊維破断が広範囲に発生する。


🧑‍🎓

BVID(Barely Visible Impact Damage)ですね。


🎓

そう。航空機の設計ではBVID(目視で検出困難な衝撃損傷)が最も厳しい設計条件。ツールの落下(低速衝撃)でBVIDが発生し、その状態で圧縮荷重を受けたときの残留強度(CAI)が設計許容値を決める。


衝撃の分類

🎓
種類速度主な損傷
低速衝撃< 10 m/s工具の落下、ハイルストーンマトリクスクラック、層間剥離
中速衝撃10〜100 m/s滑走路の石、鳥衝突貫通損傷、広範囲剥離
高速衝撃> 100 m/s弾道衝撃貫通、プラグ形成
超高速衝撃> 1000 m/s宇宙デブリクレーター、完全破壊
🧑‍🎓

低速衝撃が最も一般的で、BVIDの原因ですね。


🎓

航空機の運用中に最も頻繁に起きるのが低速衝撃。設計ではICAO/FAAの規定に基づき、特定のエネルギー(例: 35 J/ボーイング、50 J/エアバス)の衝撃に対するBVIDを想定する。


衝撃損傷のメカニズム

🎓

低速衝撃の損傷メカニズム(時系列):


1. 接触開始 — インパクターが板に接触

2. マトリクスクラックの発生 — 曲げ応力で直交方向に亀裂

3. 層間剥離の進展 — マトリクスクラックが層間に達して剥離

4. 繊維破断 — エネルギーが大きいと繊維も破断

5. 反発(リバウンド) — インパクターが跳ね返る。損傷は残留


🧑‍🎓

剥離はマトリクスクラックから始まるんですね。


🎓

マトリクスクラックが層間界面に達したとき、クラックの先端のエネルギーが層間の破壊靭性を超えると剥離が発生する。剥離は繊維角が異なる層間(例: 0°/90°界面)で優先的に発生する。


FEMでの衝撃解析

🎓

衝撃解析は陽解法(Explicit)が標準。Abaqus/ExplicitまたはLS-DYNAで:


  • インパクター — 剛体または弾性体
  • ソリッド要素 + Hashin損傷 + CZM(層間)
  • 接触 — General Contact or Penalty法

🧑‍🎓

全層にCZMを入れる必要がありますか?


🎓

理想的にはそうだが、計算コストが膨大。主要な層間(繊維角が急変する界面)にのみCZMを配置するのが実務的。


まとめ

🧑‍🎓

複合材衝撃損傷の理論を整理します。


🎓

要点:


  • BVID — 表面から見えない内部損傷。航空機設計の最厳しい条件
  • 損傷の連鎖 — マトリクスクラック→層間剥離→繊維破断
  • 低速衝撃が最も一般的 — 工具落下、ハイル、滑走路の石
  • 陽解法(Explicit)でシミュレーション — Hashin + CZM
  • 繊維角が急変する層間で剥離が優先的に発生

Coffee Break よもやま話

NASAとNASTRAN — FEMの夜明け

今や世界中で使われている有限要素法ソルバー「NASTRAN」は、1960年代にNASAが開発しました。アポロ計画でロケットの構造解析が必要だったのです。当時のコンピュータはメモリ数KBの時代——今のスマートフォンの100万分の1以下の性能で、人類を月に送る構造計算をしていたのです。

各項の物理的意味
  • 慣性項(質量項):$\rho \ddot{u}$、つまり「質量×加速度」。急ブレーキで体が前に投げ出された経験はありませんか? あの「持っていかれる感じ」がまさに慣性力です。重い物体ほど動き出しにくく、動き出したら止まりにくい。地震で建物が揺れるのも、地面が急に動いたのに建物の質量が「置いていかれる」から。静解析ではこの項をゼロにしますが、それは「ゆっくり力をかけるから加速度は無視できる」という仮定です。衝撃荷重や振動問題では絶対に省略できません。
  • 剛性項(弾性復元力):$Ku$ や $\nabla \cdot \sigma$。ばねを引っ張ると「戻ろうとする力」を感じますよね? あれがフックの法則 $F=kx$ であり、剛性項の本質です。では質問——鉄の棒とゴム紐、同じ力で引っ張るとどちらが伸びるでしょうか? 当然ゴムです。この「伸びにくさ」がヤング率 $E$ であり、剛性を決めます。よくある勘違い:「剛性が高い=強い」ではありません。剛性は「変形しにくさ」、強度は「壊れにくさ」で、別の概念です。
  • 外力項(荷重項):体積力 $f_b$(重力など)と表面力 $f_s$(圧力、接触力など)。こう考えてみてください——橋の上のトラックの重さは「中身全体にかかる力」(体積力)、タイヤが路面を押す力は「表面だけにかかる力」(表面力)。風圧、水圧、ボルトの締付力…すべて外力です。ここでありがちな失敗:荷重の方向を間違える。「引張」のつもりが「圧縮」になっていた——笑い話に聞こえますが、3D空間で座標系が回転していると実際に起こります。
  • 減衰項:レイリー減衰 $C\dot{u} = (\alpha M + \beta K)\dot{u}$。ギターの弦を弾いてみてください。音は鳴り続けますか? いいえ、徐々に小さくなりますよね。振動エネルギーが空気抵抗や弦の内部摩擦で熱に変わるからです。車のショックアブソーバーも同じ原理——わざと振動エネルギーを吸収して乗り心地を良くしています。もし減衰がゼロだったら? 建物は地震の後いつまでも揺れ続けることになります。実際にはそうならないので、適切な減衰の設定が重要です。
仮定条件と適用限界
  • 連続体仮定:材料を連続的な媒質として扱い、ミクロな不均質性を無視する
  • 微小変形仮定(線形解析の場合):変形が初期寸法に比べて十分小さく、応力-歪み関係が線形
  • 等方性材料(特に指定がない場合):材料特性が方向に依存しない(異方性材料では別途テンソル定義が必要)
  • 準静的仮定(静解析の場合):慣性力・減衰力を無視し、外力と内力の釣り合いのみを考慮
  • 適用外ケース:大変形・大回転問題では幾何学的非線形性が必要。塑性・クリープ等の非線形材料挙動では構成則の拡張が必要
次元解析と単位系
変数SI単位注意点・換算メモ
変位 $u$m(メートル)mm入力時は荷重・弾性率もMPa/N系に統一すること
応力 $\sigma$Pa(パスカル)= N/m²MPa = 10⁶ Pa。降伏応力との比較時に単位系の不一致に注意
歪み $\varepsilon$無次元(m/m)工学歪みと対数歪みの区別に注意(大変形時)
弾性率 $E$Pa鋼: 約210 GPa、アルミ: 約70 GPa。温度依存性に注意
密度 $\rho$kg/m³mm系ではtonne/mm³(= 10⁻⁹ tonne/mm³ for 鋼)
力 $F$N(ニュートン)mm系ではN、m系ではNで統一

数値例:片持ち梁の先端荷重(L=1m, 断面50×100mm, 鋼材E=210GPa, P=1kN)

最大たわみ δ = PL³/(3EI) = 1000×1000³/(3×210000×4,166,667) ≈ 0.381 mm 最大応力 σ = PL×(h/2)/I ≈ 12.0 MPa(降伏応力235MPaに対して安全率19.6)

メッシュ密度を変えた収束性の確認:

粗いメッシュ(500要素)0.362 mm
-5.0%
中程度(2,000要素)0.378 mm
-0.8%
細かいメッシュ(8,000要素)0.380 mm
-0.3%
理論解0.381 mm
基準

ポイント:要素数を4倍にしても結果は0.5%しか変わらない→8,000要素で十分収束。これが「メッシュ収束性」の確認です。

簡易計算ツール:構造力学基礎

片持ち梁の先端集中荷重における最大たわみ・最大応力を計算します。

単軸応力状態における応力・歪み・伸びの相互換算。

CAE実務でよく使う単位の換算。

構造解析の収束問題や計算コストに課題を感じていませんか? — Project NovaSolverは、実務者が日々直面するこうした課題の解決を目指す研究開発プロジェクトです。

複合材料の衝撃損傷解析の実務で感じる課題を教えてください

Project NovaSolverは、CAEエンジニアが日々直面する課題——セットアップの煩雑さ、計算コスト、結果の解釈——の解決を目指しています。あなたの実務経験が、より良いツール開発の原動力になります。

実務課題アンケートに回答する →