Smagorinskyモデル -- 理論と支配方程式
Smagorinskyモデルの概要
先生、Smagorinskyモデルって一番基本的なSGSモデルなんですよね?
そうだよ。1963年にJoseph Smagorinskyが大気循環モデルのために提案したもので、LESにおけるSGSモデルの元祖と言える存在だ。考え方はシンプルで、SGS渦粘性を局所の歪み速度の大きさとフィルタ幅から算出するんだ。
基本式の導出
具体的な数式はどうなりますか?
Smagorinskyモデルでは、SGS渦粘性 $\nu_{sgs}$ を以下のように定義する。
ここで $C_s$ はSmagorinsky定数、$\Delta$ はフィルタ幅、$|\bar{S}|$ はフィルタ済み歪み速度テンソルの大きさだ。
次元解析的にも辻褄が合いますね。$\nu_{sgs}$ は $[長さ^2/時間]$ で、$(C_s \Delta)^2$ は $[長さ^2]$、$|\bar{S}|$ は $[1/時間]$ だから。
いいところに気がついた。実はこのモデルは混合長理論のLES版とも解釈できる。RANSのPrandtl混合長理論で $\nu_t = l_m^2 |S|$ としたのと同じ構造で、混合長 $l_m$ をフィルタ幅 $C_s \Delta$ に置き換えたものなんだ。
Smagorinsky定数 $C_s$ の値
$C_s$ の値はどうやって決めるんですか?
Lillyの理論解析(1967年)によると、等方性乱流を仮定してKolmogorovのエネルギースペクトル $E(k) = C_K \varepsilon^{2/3} k^{-5/3}$ と整合させると、
となる($C_K \approx 1.6$)。ただし実用上は $C_s = 0.1$ 〜 $0.2$ の範囲で使われることが多い。
流れによって最適な値が変わるってことですか?
そうなんだ。等方性乱流では $C_s \approx 0.17$ が適切だけど、せん断流れでは $C_s \approx 0.1$ 程度にしないと過大な散逸が生じる。壁面近傍ではさらに小さい値が必要で、Van Driest減衰関数を使って壁面で $C_s \to 0$ とする処理が一般的だ。
ここで $A^+ \approx 25$ だ。この「$C_s$ を流れに応じて調整しないといけない」という欠点が、動的Smagorinskyモデルの開発動機になったんだ。
Smagorinskyモデルの長所と短所
長所と短所を整理してもらえますか?
| 長所 | 短所 | ||
|---|---|---|---|
| 実装が極めて簡単 | $C_s$ が問題依存のパラメータ | ||
| 計算コストが低い | 壁面近傍で過大な散逸(Van Driest減衰が必要) | ||
| 数値的に安定(常に $\nu_{sgs} \geq 0$) | 層流/遷移領域でも散逸を発生($ | \bar{S} | \neq 0$ なら $\nu_{sgs} > 0$) |
| 歴史が長く検証事例が豊富 | 逆エネルギーカスケード(backscatter)を表現不可 |
レイノルズの実験(1883年)——乱流発見の瞬間
オズボーン・レイノルズは、管内の水にインクを流す実験で「層流から乱流への遷移」を発見しました。流速を上げていくと、インクの線がある瞬間にグチャグチャに乱れる。この劇的な瞬間を、レイノルズは数学的に $Re = \rho uD/\mu$ という無次元数で表現した。100年以上経った今も、CFDエンジニアが最初に確認するのはこのレイノルズ数です。
各項の物理的意味
- 時間項 $\partial(\rho\phi)/\partial t$:蛇口をひねった瞬間を思い浮かべてください。最初は水がバタバタと不安定に出て、しばらくすると安定した流れになりますよね? この「変化している最中」を記述するのが時間項です。心臓の拍動で血流が脈打つのも、エンジンのバルブが開閉するたびに流れが変動するのも、すべて非定常現象。では定常解析とは? 「十分時間が経って流れが落ち着いた後」だけを見る——つまりこの項をゼロにする。計算コストが大幅に下がるため、まず定常で解いてみるのがCFDの基本戦略です。
- 対流項 $\nabla \cdot (\rho \mathbf{u} \phi)$:川に落ち葉を落としたらどうなりますか? 流れに乗って下流に運ばれますよね。これが「対流」——流体の動きが物を運ぶ効果です。暖房の温風が部屋の端まで届くのも、空気という「運び屋」が熱を対流で輸送しているから。ここが面白いところ——この項は「速度×速度」を含むため非線形です。つまり、流れが速くなるとこの項が急激に強くなり、制御が難しくなる。これが乱流の根本原因です。よくある勘違い:「対流と伝導は同じようなもの」→ 全然違います! 対流は流れが運ぶ、伝導は分子が伝える。桁違いの効率差があります。
- 拡散項 $\nabla \cdot (\Gamma \nabla \phi)$:コーヒーにミルクを入れて放置したことはありますか? かき混ぜなくても、しばらく経つと自然に混ざりますよね。あれが分子拡散です。では次の質問——ハチミツとお水、どちらが流しやすいですか? 当然お水ですよね。ハチミツは粘性($\mu$)が高いから流れにくい。粘性が大きいと拡散項が強くなり、流体は「もったりした」動きになります。レイノルズ数が小さい流れ(ゆっくり、ドロドロ)では拡散が支配的。逆にRe数が大きい流れでは対流が圧倒し、拡散は脇役になります。
- 圧力項 $-\nabla p$:注射器のピストンを押すと、液体が針先から勢いよく出ますよね? なぜでしょう? ピストン側が高圧、針先が低圧——この圧力差が流体を押す力になるからです。ダムの放水も同じ原理。天気図で等圧線がギュッと密になっている場所では? そう、強風が吹きます。「圧力差があるところに流れが生まれる」——これがナビエ-ストークス方程式の圧力項の物理的意味。ここでの勘違いポイント:CFDの「圧力」は絶対圧ではなくゲージ圧のことが多い。圧縮性解析に切り替えたとたんに結果がおかしくなる場合、絶対圧/ゲージ圧の混同が原因かもしれません。
- ソース項 $S_\phi$:暖められた空気が上に昇る——なぜでしょう? 周囲より軽く(密度が低く)なったから、浮力で押し上げられるのです。この浮力はソース項として方程式に追加されます。他にも、ガスコンロの炎で化学反応熱が発生する、工場の電磁ポンプで金属溶湯にローレンツ力がかかる…これらはすべて「外部から流体にエネルギーや力を注入する」作用であり、ソース項で表現します。ソース項を忘れるとどうなるか? 自然対流の解析で浮力を入れ忘れると、流体は一切動かない——冬の部屋で暖房をつけたのに暖かい空気が上に行かない、という物理的にありえない結果になります。
仮定条件と適用限界
- 連続体仮定:クヌッセン数 Kn < 0.01(分子平均自由行程 ≪ 代表長さ)で成立
- ニュートン流体仮定:せん断応力と歪み速度が線形関係(非ニュートン流体では粘度モデルが必要)
- 非圧縮性仮定(Ma < 0.3の場合):密度を一定として扱う。マッハ数0.3以上では圧縮性効果を考慮
- ブシネスク近似(自然対流):密度変化を浮力項のみで考慮し、他の項では一定密度を使用
- 適用外ケース:希薄気体(Kn > 0.1)、超音速・極超音速流れ(衝撃波捕捉が必要)、自由表面流れ(VOF/Level Set等が必要)
次元解析と単位系
| 変数 | SI単位 | 注意点・換算メモ |
|---|---|---|
| 速度 $u$ | m/s | 入口条件で体積流量から換算する際、断面積の単位に注意 |
| 圧力 $p$ | Pa | ゲージ圧と絶対圧の区別。圧縮性解析では絶対圧を使用 |
| 密度 $\rho$ | kg/m³ | 空気: 約1.225 kg/m³@20°C、水: 約998 kg/m³@20°C |
| 粘性係数 $\mu$ | Pa·s | 動粘性係数 $\nu = \mu/\rho$ [m²/s] との混同に注意 |
| レイノルズ数 $Re$ | 無次元 | $Re = \rho u L / \mu$。層流/乱流遷移の判定指標 |
| CFL数 | 無次元 | $CFL = u \Delta t / \Delta x$。時間刻みの安定性に直結 |
数値例:円管内層流(d=10mm, L=1m, 水μ=0.001Pa·s, Q=0.1L/min)
Re = ρuD/μ = 998×0.021×0.01/0.001 ≈ 212(層流) 圧力損失 ΔP = 128μLQ/(πd⁴) ≈ 68.2 Pa
乱流モデル別の精度比較(後向きステップ、再付着長さ):
k-ω SSTは精度とコストのバランスが良く、多くの実務で最初の選択肢になります。
CFDメッシュの品質管理や乱流モデルの選定に悩む時間を、もっと創造的な設計作業に使えたら。 — Project NovaSolverはそんな実務者の声から生まれました。
Project NovaSolver — CAE実務の課題に向き合う研究開発
「Smagorinskyモデルをもっと効率的に解析できないか?」——私たちは実務者の声に耳を傾け、既存ワークフローの改善を目指す次世代CAEプロジェクトに取り組んでいます。具体的な機能はまだ公開前ですが、開発の進捗をお届けします。
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