中央差分法(陽解法) — 理論と支配方程式

カテゴリ: 構造解析 | 2026-01-15
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理論と物理の世界へ

陽解法とは

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先生、「陽解法(Explicit法)」と「陰解法(Implicit法)」の違いは何ですか?


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陰解法は各時間ステップで連立方程式を解く(平衡反復あり)。陽解法は連立方程式を解かずに、質量マトリクスの逆行列(対角なら逆数)だけで次の時刻の変位を直接計算する。


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連立方程式を解かない? それは速そうです。


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1ステップあたりの計算は桁違いに速い。ただし安定条件があり、時間刻みが非常に小さい($\Delta t \propto L_{min} / c$、$c$ は音速)。衝撃のような短時間現象に最適。


中央差分法のアルゴリズム

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運動方程式 $[M]\{\ddot{u}\} = \{F\} - [K]\{u\} - [C]\{\dot{u}\}$ に対して:


1. 加速度の計算: $\{\ddot{u}_n\} = [M]^{-1}(\{F_n\} - \{F_{int,n}\})$

2. 速度の更新: $\{\dot{u}_{n+1/2}\} = \{\dot{u}_{n-1/2}\} + \Delta t_n \{\ddot{u}_n\}$

3. 変位の更新: $\{u_{n+1}\} = \{u_n\} + \Delta t_{n+1/2} \{\dot{u}_{n+1/2}\}$


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$[M]^{-1}$ が対角行列なら、逆行列は各対角成分の逆数を取るだけ…計算が超高速!


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だから陽解法では集中質量マトリクス(対角)が必須。一貫質量(非対角)を使うと逆行列の計算にコストがかかり、陽解法の利点が失われる。


安定条件(CFL条件

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陽解法の安定時間増分:


$$ \Delta t \leq \frac{L_{min}}{c} = \frac{L_{min}}{\sqrt{E/\rho}} $$

$L_{min}$ は最小要素サイズ、$c$ は材料の音速(弾性波速度)。


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鋼($c \approx 5000$ m/s)で $L_{min} = 5$ mm なら $\Delta t \leq 1 \mu s$…非常に小さい!


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だから1秒間の解析に100万ステップ以上必要。衝撃(数ms)なら数千ステップで済むが、準静的(数秒)だと膨大。陽解法は短時間の動的現象に適する


陽解法 vs. 陰解法

特性陽解法陰解法
1ステップの計算非常に軽い重い(連立方程式)
時間刻み非常に小さい($\mu s$オーダー)大きい($ms \sim s$)
安定条件あり(CFL条件なし(無条件安定)
適用場面衝撃、爆発、衝突準静的、振動
接触容易困難
非線形自然に扱える反復が必要
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接触が容易なのは大きな利点ですね。


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陽解法では接触の検出と力の計算が各ステップで独立に行われ、収束問題がない。車の衝突のように多数の接触が同時に起きる問題では陽解法が圧倒的に有利。


まとめ

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中央差分法(陽解法)を整理します。


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要点:


  • 連立方程式を解かない — $[M]^{-1}$ が対角なら逆数だけ
  • $\Delta t \leq L_{min} / c$CFL条件。最小要素で決まる
  • 短時間の動的現象に最適 — 衝撃、爆発、衝突
  • 接触が容易 — 収束問題なし
  • 集中質量マトリクスが必須 — 対角行列でないと速くならない

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陽解法は「短時間の激しい現象」のためのアルゴリズムなんですね。


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LS-DYNAの全解析が陽解法。Abaqus/Explicitも陽解法。自動車の衝突安全はこの手法なしには成り立たない。


Coffee Break よもやま話

タイタニック号と安全率の教訓

「不沈」と謳われたタイタニック号は、低温でのリベット材の脆性破壊が沈没の一因とされています。現代の破壊力学CAEでは、温度依存の材料特性と応力拡大係数を計算して「その温度で本当に大丈夫か?」を事前に検証できます。技術の進歩は、過去の悲劇から学んだ結果です。

各項の物理的意味
  • 慣性項(質量項):$\rho \ddot{u}$、つまり「質量×加速度」。急ブレーキで体が前に投げ出された経験はありませんか? あの「持っていかれる感じ」がまさに慣性力です。重い物体ほど動き出しにくく、動き出したら止まりにくい。地震で建物が揺れるのも、地面が急に動いたのに建物の質量が「置いていかれる」から。静解析ではこの項をゼロにしますが、それは「ゆっくり力をかけるから加速度は無視できる」という仮定です。衝撃荷重や振動問題では絶対に省略できません。
  • 剛性項(弾性復元力):$Ku$ や $\nabla \cdot \sigma$。ばねを引っ張ると「戻ろうとする力」を感じますよね? あれがフックの法則 $F=kx$ であり、剛性項の本質です。では質問——鉄の棒とゴム紐、同じ力で引っ張るとどちらが伸びるでしょうか? 当然ゴムです。この「伸びにくさ」がヤング率 $E$ であり、剛性を決めます。よくある勘違い:「剛性が高い=強い」ではありません。剛性は「変形しにくさ」、強度は「壊れにくさ」で、別の概念です。
  • 外力項(荷重項):体積力 $f_b$(重力など)と表面力 $f_s$(圧力、接触力など)。こう考えてみてください——橋の上のトラックの重さは「中身全体にかかる力」(体積力)、タイヤが路面を押す力は「表面だけにかかる力」(表面力)。風圧、水圧、ボルトの締付力…すべて外力です。ここでありがちな失敗:荷重の方向を間違える。「引張」のつもりが「圧縮」になっていた——笑い話に聞こえますが、3D空間で座標系が回転していると実際に起こります。
  • 減衰項:レイリー減衰 $C\dot{u} = (\alpha M + \beta K)\dot{u}$。ギターの弦を弾いてみてください。音は鳴り続けますか? いいえ、徐々に小さくなりますよね。振動エネルギーが空気抵抗や弦の内部摩擦で熱に変わるからです。車のショックアブソーバーも同じ原理——わざと振動エネルギーを吸収して乗り心地を良くしています。もし減衰がゼロだったら? 建物は地震の後いつまでも揺れ続けることになります。実際にはそうならないので、適切な減衰の設定が重要です。
仮定条件と適用限界
  • 連続体仮定:材料を連続的な媒質として扱い、ミクロな不均質性を無視する
  • 微小変形仮定(線形解析の場合):変形が初期寸法に比べて十分小さく、応力-歪み関係が線形
  • 等方性材料(特に指定がない場合):材料特性が方向に依存しない(異方性材料では別途テンソル定義が必要)
  • 準静的仮定(静解析の場合):慣性力・減衰力を無視し、外力と内力の釣り合いのみを考慮
  • 適用外ケース:大変形・大回転問題では幾何学的非線形性が必要。塑性・クリープ等の非線形材料挙動では構成則の拡張が必要
次元解析と単位系
変数SI単位注意点・換算メモ
変位 $u$m(メートル)mm入力時は荷重・弾性率もMPa/N系に統一すること
応力 $\sigma$Pa(パスカル)= N/m²MPa = 10⁶ Pa。降伏応力との比較時に単位系の不一致に注意
歪み $\varepsilon$無次元(m/m)工学歪みと対数歪みの区別に注意(大変形時)
弾性率 $E$Pa鋼: 約210 GPa、アルミ: 約70 GPa。温度依存性に注意
密度 $\rho$kg/m³mm系ではtonne/mm³(= 10⁻⁹ tonne/mm³ for 鋼)
力 $F$N(ニュートン)mm系ではN、m系ではNで統一

数値例:片持ち梁の先端荷重(L=1m, 断面50×100mm, 鋼材E=210GPa, P=1kN)

最大たわみ δ = PL³/(3EI) = 1000×1000³/(3×210000×4,166,667) ≈ 0.381 mm 最大応力 σ = PL×(h/2)/I ≈ 12.0 MPa(降伏応力235MPaに対して安全率19.6)

メッシュ密度を変えた収束性の確認:

粗いメッシュ(500要素)0.362 mm
-5.0%
中程度(2,000要素)0.378 mm
-0.8%
細かいメッシュ(8,000要素)0.380 mm
-0.3%
理論解0.381 mm
基準

ポイント:要素数を4倍にしても結果は0.5%しか変わらない→8,000要素で十分収束。これが「メッシュ収束性」の確認です。

簡易計算ツール:構造力学基礎

片持ち梁の先端集中荷重における最大たわみ・最大応力を計算します。

単軸応力状態における応力・歪み・伸びの相互換算。

CAE実務でよく使う単位の換算。

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