圧力容器の線形解析 — 理論と支配方程式
圧力容器の力学
先生、圧力容器の応力解析って特別な理論が必要ですか?
圧力容器は回転シェルの力学が基礎になる。薄肉の円筒や球殻に内圧がかかる問題で、膜理論(membrane theory)と曲げ理論(bending theory)の2段階で考える。
薄肉理論(膜理論)
薄肉円筒の応力式を教えてください。
内圧 $p$、内径 $D$、板厚 $t$ の薄肉円筒:
フープ応力は軸方向応力の2倍! だから圧力容器は周方向に裂けるんですね。
まさにそう。ソーセージを茹でると縦に裂けるのと同じ理屈だ。圧力容器の設計ではフープ応力が支配的であり、板厚は主にフープ応力で決まる。
薄肉球殻では:
球殻のほうが応力が低い(円筒のフープ応力の半分)。だから球形タンクは円筒より効率的だが、製造が難しい。
厚肉理論(ラメの問題)
薄肉公式はどの程度の板厚まで使えますか?
$D/t > 20$ 程度が目安。$D/t < 20$ では厚肉理論(ラメの式)が必要:
厚肉では $\sigma_r$ も無視できないんですね。内面で $\sigma_r = -p$(圧縮)。
そう。薄肉では $\sigma_r \approx 0$ と仮定するが、厚肉では板厚方向の応力勾配が重要になる。内面のフープ応力は薄肉公式より高くなる。
不連続応力
圧力容器の「不連続応力」とは何ですか?
これが圧力容器解析の核心だ。一様な円筒や球殻だけなら膜理論で十分だが、実際の圧力容器には:
- 胴と鏡板の接続部
- ノズル接続部
- 板厚の変化部
- 支持部
これらの幾何学的不連続で、膜理論だけでは満たせない適合条件を満足するために局所的な曲げ応力が発生する。これが不連続応力だ。
膜応力の上に、局所的な曲げ応力が重畳するんですね。
そう。不連続応力は不連続部から離れると急速に減衰する。減衰距離は概ね $\sqrt{Rt}$ のオーダー($R$: 半径、$t$: 板厚)。この「影響範囲」の中では膜理論だけでは不正確で、FEMによる曲げ解析が必要だ。
ASME規格の応力分類
ASME規格では応力をどう分類するんですか?
ASME BPVC Section VIII Div. 2 Part 5 の応力分類:
| 応力カテゴリ | 記号 | 意味 | 許容値 |
|---|---|---|---|
| 一般膜応力 | $P_m$ | 容器全体に作用する膜応力 | $S$(許容応力) |
| 局所膜応力 | $P_L$ | 不連続部の局所膜応力 | $1.5S$ |
| 一次曲げ応力 | $P_b$ | 荷重平衡に必要な曲げ応力 | $1.5S$($P_L + P_b$で) |
| 二次応力 | $Q$ | 自己制限性のある変位起因応力 | $3S$($P_L + P_b + Q$で) |
| ピーク応力 | $F$ | 局所的な応力集中 | 疲労評価に使用 |
膜応力が一番厳しくて、二次応力は3倍まで許容されるんですか。
二次応力は「自己制限性」(self-limiting)がある。局所的な降伏が起きても、変形が拘束されるため塑性崩壊には至らない。だから膜応力より大きな許容値が設定されている。不連続応力の大部分は二次応力に分類される。
まとめ
圧力容器の理論を整理します。
要点:
- 薄肉公式 — $\sigma_\theta = pD/(2t)$。フープ応力が軸方向の2倍
- 厚肉はラメの式 — $D/t < 20$ で必要。板厚方向の応力勾配
- 不連続応力 — 幾何学的不連続部での局所曲げ。FEMが必須
- ASME応力分類 — $P_m, P_L, P_b, Q, F$ の5カテゴリ
- 二次応力は3Sまで許容 — 自己制限性のある応力
圧力容器の設計は「どこが膜応力でどこが二次応力か」を正しく分類することが鍵なんですね。
まさにそう。応力分類を間違えると、安全側にも危険側にもなる。FEMで応力を出すだけでなく、それを正しく分類する能力が圧力容器エンジニアに求められる。
タコマナローズ橋の崩壊(1940年)
完成からわずか4ヶ月で崩壊した吊り橋。風速わずか65km/hで起きた空力弾性フラッター(共振)が原因でした。この事故は「振動解析を怠るとどうなるか」の最も有名な教訓として、今でも構造力学の教科書に載っています。現代のCAEは、この種の問題を設計段階で発見できます。もし当時にCAEがあれば、橋は今も架かっていたかもしれません。
各項の物理的意味
- 慣性項(質量項):$\rho \ddot{u}$、つまり「質量×加速度」。急ブレーキで体が前に投げ出された経験はありませんか? あの「持っていかれる感じ」がまさに慣性力です。重い物体ほど動き出しにくく、動き出したら止まりにくい。地震で建物が揺れるのも、地面が急に動いたのに建物の質量が「置いていかれる」から。静解析ではこの項をゼロにしますが、それは「ゆっくり力をかけるから加速度は無視できる」という仮定です。衝撃荷重や振動問題では絶対に省略できません。
- 剛性項(弾性復元力):$Ku$ や $\nabla \cdot \sigma$。ばねを引っ張ると「戻ろうとする力」を感じますよね? あれがフックの法則 $F=kx$ であり、剛性項の本質です。では質問——鉄の棒とゴム紐、同じ力で引っ張るとどちらが伸びるでしょうか? 当然ゴムです。この「伸びにくさ」がヤング率 $E$ であり、剛性を決めます。よくある勘違い:「剛性が高い=強い」ではありません。剛性は「変形しにくさ」、強度は「壊れにくさ」で、別の概念です。
- 外力項(荷重項):体積力 $f_b$(重力など)と表面力 $f_s$(圧力、接触力など)。こう考えてみてください——橋の上のトラックの重さは「中身全体にかかる力」(体積力)、タイヤが路面を押す力は「表面だけにかかる力」(表面力)。風圧、水圧、ボルトの締付力…すべて外力です。ここでありがちな失敗:荷重の方向を間違える。「引張」のつもりが「圧縮」になっていた——笑い話に聞こえますが、3D空間で座標系が回転していると実際に起こります。
- 減衰項:レイリー減衰 $C\dot{u} = (\alpha M + \beta K)\dot{u}$。ギターの弦を弾いてみてください。音は鳴り続けますか? いいえ、徐々に小さくなりますよね。振動エネルギーが空気抵抗や弦の内部摩擦で熱に変わるからです。車のショックアブソーバーも同じ原理——わざと振動エネルギーを吸収して乗り心地を良くしています。もし減衰がゼロだったら? 建物は地震の後いつまでも揺れ続けることになります。実際にはそうならないので、適切な減衰の設定が重要です。
仮定条件と適用限界
次元解析と単位系
| 変数 | SI単位 | 注意点・換算メモ |
|---|---|---|
| 変位 $u$ | m(メートル) | mm入力時は荷重・弾性率もMPa/N系に統一すること |
| 応力 $\sigma$ | Pa(パスカル)= N/m² | MPa = 10⁶ Pa。降伏応力との比較時に単位系の不一致に注意 |
| 歪み $\varepsilon$ | 無次元(m/m) | 工学歪みと対数歪みの区別に注意(大変形時) |
| 弾性率 $E$ | Pa | 鋼: 約210 GPa、アルミ: 約70 GPa。温度依存性に注意 |
| 密度 $\rho$ | kg/m³ | mm系ではtonne/mm³(= 10⁻⁹ tonne/mm³ for 鋼) |
| 力 $F$ | N(ニュートン) | mm系ではN、m系ではNで統一 |
数値例:片持ち梁の先端荷重(L=1m, 断面50×100mm, 鋼材E=210GPa, P=1kN)
最大たわみ δ = PL³/(3EI) = 1000×1000³/(3×210000×4,166,667) ≈ 0.381 mm 最大応力 σ = PL×(h/2)/I ≈ 12.0 MPa(降伏応力235MPaに対して安全率19.6)
メッシュ密度を変えた収束性の確認:
ポイント:要素数を4倍にしても結果は0.5%しか変わらない→8,000要素で十分収束。これが「メッシュ収束性」の確認です。
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