実在気体効果 — 数値解法と実装

カテゴリ: 流体解析 | 2026-01-20
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数値解法の舞台裏

EOSの数値実装

🧑‍🎓

実在気体EOSをCFDに組み込むとき、計算上の問題はありますか?


🎓

いくつか重要なポイントがある。理想気体では保存変数($\rho, \rho\mathbf{u}, \rho E$)から温度や圧力への変換が解析的にできるが、PR-EOSなどでは反復計算が必要になる。


具体的には、内部エネルギー $e$ と密度 $\rho$ が与えられたとき、温度 $T$ を


$$ e(T, \rho) = e_{ideal}(T) + e_{departure}(T, \rho) $$

からNewton法で求める。ここで $e_{departure}$ はEOSから導出される出発関数(departure function)で、PR-EOSでは


$$ e_{dep} = \frac{a - T \frac{da}{dT}}{2\sqrt{2}b} \ln\left(\frac{v + (1+\sqrt{2})b}{v + (1-\sqrt{2})b}\right) $$

となる。この反復計算がセル数×タイムステップ分必要だから計算コストが増大する。


🧑‍🎓

理想気体に比べてどれくらい計算が遅くなるんですか?


🎓

一般に2-5倍程度。EOSの評価回数が支配的だから、テーブル参照法(look-up table)で高速化するのが実務では一般的だ。温度と圧力の2Dテーブルを事前計算しておき、実行時は補間するだけにする。


超臨界流体の数値的困難

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超臨界状態って数値的に何が難しいんですか?


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臨界点近傍では熱力学特性が急激に変化する。定圧比熱 $c_p$ は擬臨界温度(pseudo-critical temperature)付近でピークを持ち、密度も急変する。この急峻な変化は数値的な振動や発散の原因になる。


例えばCO₂の超臨界条件(p = 8 MPa, T = 305 K付近)では $c_p$ が通常の10倍以上に跳ね上がる。密度は数K変わるだけで700 kg/m³から200 kg/m³に急変する。


🧑‍🎓

そんなに変化が激しいんですか。数値スキームに特別な工夫が要りますね。


🎓

その通り。推奨されるアプローチは以下だ。


  • テーブル法: NISTのREFPROPデータベースから物性テーブルを生成し、双線形補間でアクセス
  • 陰解法: 密度変化が大きいため、陰的な圧力-密度カップリングが安定性に必須
  • メッシュ解像: 擬臨界遷移が起きる領域でメッシュを密にする
  • 時間刻み: 適応的タイムステップで密度急変に対応

リーマンソルバーの拡張

🧑‍🎓

実在気体でもRoeスキームやHLLCは使えるんですか?


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使えるが、修正が必要だ。Roeの平均状態の計算で理想気体の仮定を外さないといけない。実在気体のRoeスキームでは、平均音速を


$$ \tilde{a}^2 = \frac{\tilde{h} - \tilde{q}^2/2}{\tilde{\Gamma}} $$

のように一般化された $\Gamma = v/(c_p)(\partial p / \partial T)_v$ を使って計算する(Vinokurの定式化等)。HLLCの方がEOSへの依存が少なく実装が容易だから、実在気体ではHLLCが好まれることが多い。


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実装の手間を考えるとHLLCの方が実用的なんですね。


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そう。OpenFOAMのrhoCentralFoamはKNPスキームベースでEOSに依存しないから、EOSだけ差し替えれば実在気体計算ができる利点がある。


Coffee Break よもやま話

F1と空力の戦い

F1マシンは時速300kmで走ると、車重と同じくらいのダウンフォース(下向きの空力的な力)を発生します。つまり理論上、天井に貼り付けて走れる! チームは数千CPU時間のCFDシミュレーションを毎週実行し、フロントウィングの角度を0.1°単位で最適化しています。F1はCAEの技術力がそのまま順位に直結する世界です。

離散化手法の詳細解説

空間離散化における手法選択が数値精度・安定性・計算コストに与える影響を詳述する。

風上差分(Upwind)

1次風上: 数値拡散が大きいが安定。2次風上: 精度向上するが振動のリスク。高レイノルズ数流れでは必須。

中心差分(Central Differencing)

2次精度だが、Pe数 > 2で数値振動が発生。低レイノルズ数の拡散支配流れに適する。

TVDスキーム(MUSCL、QUICK等)

リミッタ関数により数値振動を抑制しつつ高精度を維持。衝撃波や急勾配の捕捉に有効。

有限体積法 vs 有限要素法

FVM: 保存則を自然に満足。CFDの主流。FEM: 複雑形状・マルチフィジックスに有利。SPH等のメッシュフリー法も発展中。

マトリクスソルバーの選定指針

問題規模と特性に応じた最適なソルバー選択のガイドライン。

ソルバー種別詳細・推奨条件
圧力-速度連成(SIMPLE系)SIMPLE: 標準的だが収束が遅い。SIMPLEC: 圧力補正の緩和が改善。PISO: 非定常問題に適する。
連立系ソルバーAMG(代数的マルチグリッド): 大規模問題の標準。ILU前処理: メモリ効率良好。ブロックGauss-Seidel: 連成系に有効。
DOF別推奨〜10⁵セル: SIMPLE+AMG、10⁵〜10⁷セル: SIMPLEC+AMG+並列、10⁷セル〜: 結合型ソルバー(Coupled Solver)を検討

時間積分法と収束判定

ソルバー内部の制御パラメータと収束判定基準について記述する。

CFL条件(クーラン数)

陽解法: CFL ≤ 1が安定条件。陰解法: CFL > 1でも安定だが、精度と反復回数に影響。LES: CFL ≈ 1を推奨。物理的意味: 1タイムステップで情報が1セル以上進まないこと。

残差モニタリング

連続の式・運動量・エネルギーの各残差が3〜4桁低下で収束と判断。質量保存の残差は特に重要。

緩和係数

圧力: 0.2〜0.3、速度: 0.5〜0.7が一般的な初期値。発散する場合は緩和係数を下げる。収束後は上げて加速。

非定常計算の内部反復

各タイムステップ内で定常解に収束するまで反復。内部反復数: 5〜20回が目安。残差がタイムステップ間で変動する場合は時間刻みを見直す。

数値解法の直感的理解

FVMのイメージ

有限体積法は「会計帳簿」に似ている。各セル(口座)について「入ってくる量」と「出ていく量」の収支を厳密に管理する。隣のセルに流れ出た量は、そのセルに流れ込む量と完全に一致する——これが「保存性」であり、流体解析で質量やエネルギーが勝手に増減しないことを保証する。

SIMPLE法のたとえ

SIMPLE法は「交互に調整する」手法。まず速度を仮に求め(予測ステップ)、その速度で質量保存が満たされるよう圧力を補正し(補正ステップ)、補正された圧力で速度を修正する——このキャッチボールを繰り返して正解に近づく。2人で棚を水平にする作業に似ている:片方が高さを合わせ、もう片方がバランスを取り、これを交互に繰り返す。

風上差分のたとえ

風上差分は「川の流れに立って上流の情報を重視する」手法。川の中にいる人が下流を見ても水の出所は分からない——上流の情報が下流を決めるという物理を反映した離散化手法。精度は1次だが、流れの方向を正しく捕捉するため安定性が高い。

CFDメッシュの品質管理や乱流モデルの選定に悩む時間を、もっと創造的な設計作業に使えたら。 — Project NovaSolverはそんな実務者の声から生まれました。

実在気体効果の実務で感じる課題を教えてください

Project NovaSolverは、CAEエンジニアが日々直面する課題——セットアップの煩雑さ、計算コスト、結果の解釈——の解決を目指しています。あなたの実務経験が、より良いツール開発の原動力になります。

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