フーリエの法則 — 数値解法と離散化
有限要素法による離散化
フーリエの法則をコンピュータで解くにはどうするんですか?
定常熱伝導問題の弱形式(ガラーキン法)から出発する。温度場 $T$ を形状関数 $N_i$ で近似する。
弱形式にして部分積分を適用すると、要素レベルの方程式が得られる。
ここで $K^e_{ij} = \int_{\Omega_e} k \nabla N_i \cdot \nabla N_j \, d\Omega$ が要素熱伝導マトリクス、$f^e_i = \int_{\Omega_e} \dot{q}_v N_i \, d\Omega + \int_{\Gamma_e} q_s N_i \, d\Gamma$ が要素熱負荷ベクトルだ。
構造解析の剛性マトリクスと形が似てますね。
いい着眼点だ。構造の $[K]\{u\}=\{F\}$ と数学的に同じ構造だ。ただし熱解析は未知数がスカラーの温度なので、節点あたりの自由度は1つだけ。構造解析より問題サイズがずっと小さくなる。
有限差分法・有限体積法
有限差分法(FDM)も定常熱伝導でよく使われる。中心差分で離散化すると、1次元では
有限体積法(FVM)はセル中心に温度を配置し、セル界面での熱流束を保存する。CFDソルバー(Ansys Fluent, STAR-CCM+)はFVMベースなので、共役熱伝達解析では自動的にFVMで固体側も離散化される。
方法によって精度は変わりますか?
FEMは複雑形状に強く高次要素で高精度が得られる。FVMは保存則を厳密に満たすので流体と固体の連成に向く。FDMは実装が容易だが構造格子に限定される。使い分けが重要だ。
行列解法
組み上がった全体方程式 $[K]\{T\}=\{f\}$ は、定常熱伝導の場合は線形なので一度の解法で済む。
| 解法 | 種類 | 特徴 | 推奨規模 |
|---|---|---|---|
| Cholesky分解 | 直接法 | 対称正定値に最適、正確 | 〜50万DOF |
| PCG法 | 反復法 | メモリ効率良好 | 50万〜1000万DOF |
| AMG前処理+CG | 反復法 | 大規模問題に強い | 1000万DOF以上 |
温度依存の熱伝導率がある場合はどうなりますか?
非線形問題になるので反復計算が必要だ。Newton-Raphson法で $k(T)$ を逐次更新する。収束判定は残差ノルム $10^{-6}$ 程度が標準だが、温度変化量で $10^{-3}$ K を基準にすることもある。
チャレンジャー号事故とOリングの温度
1986年のスペースシャトル・チャレンジャー号の爆発事故は、低温でOリングのゴムが硬化し、シール機能を失ったことが原因。打ち上げ当日の気温は0°C付近——設計想定を大きく下回っていました。現代の熱-構造連成解析なら「0°Cでゴムの弾性率がどう変わるか」「シール面の接触圧が維持されるか」を事前に検証できます。温度依存材料特性の重要性を、最も痛ましい形で教えてくれた事故です。
離散化手法の詳細解説
空間離散化における手法選択が数値精度・安定性・計算コストに与える影響を詳述する。
線形要素 vs 2次要素
熱伝導解析では線形要素でも十分な精度が得られることが多い。温度勾配が急な領域(熱衝撃等)では2次要素を推奨。
熱流束の評価
要素内の温度勾配から算出。節点応力と同様にスムージングが必要な場合がある。
対流-拡散問題
ペクレ数が高い(対流支配)場合、風上的安定化(SUPG等)が必要。純粋な熱伝導問題では不要。
マトリクスソルバーの選定指針
問題規模と特性に応じた最適なソルバー選択のガイドライン。
| ソルバー種別 | 詳細・推奨条件 |
|---|---|
| 直接法 | 熱伝導の剛性マトリクスは対称正定値→Cholesky分解が最適。温度依存物性で非対称になる場合はLU分解。 |
| 反復法 | 大規模非定常問題ではPCG+ICC前処理が効率的。放射を含む場合はGMRES推奨(非対称成分のため)。 |
| DOF別推奨 | 〜10⁵ DOF: 直接法(Cholesky)、10⁵〜: PCG+ICC、放射あり: GMRES+ILU |
時間積分法と収束判定
ソルバー内部の制御パラメータと収束判定基準について記述する。
非定常解析の時間刻み
熱拡散の特性時間 $\tau = L^2 / \alpha$($\alpha$: 熱拡散率)に対して十分小さい刻みを設定。急激な温度変化には自動時間刻み制御が有効。
非線形収束
温度依存物性値による非線形性はマイルドな場合が多く、Picard反復(直接置換法)で十分なことが多い。放射の強非線形性ではニュートン法を推奨。
定常解析の判定
全節点の温度変化が閾値以下($|\Delta T| / T_{max} < 10^{-5}$等)で収束と判定。
数値解法の直感的理解
熱解析の離散化のイメージ
熱伝導の離散化は「バケツリレー」に似ている。連続的な温度分布を離散的な節点値で近似し、隣接する節点間で「熱のバケツ」を受け渡す。温度差が大きいほど(=バケツに入る水が多いほど)熱の移動が活発になる。メッシュが粗いと大きなバケツで大雑把に運ぶことになり、精度が落ちる。
陽解法と陰解法のたとえ
陽解法は「今の情報だけで次を予測する天気予報」——計算は速いが大きな時間刻みでは不安定(嵐を見逃す)。陰解法は「未来の状態も考慮した予測」——大きな時間刻みでも安定するが、各ステップで方程式を解く手間がかかる。急激な温度変化がない問題では陰解法で大きな時間刻みを使う方が効率的。
熱解析の境界条件設定は経験と試行錯誤の繰り返し。 — Project NovaSolverは、実務者の知見を活かしやすい解析環境の実現を研究しています。
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